本ページの主役 アブラコウモリ Japanese House Bat
ヒナコウモリ科アブラコウモリ属。別名イエコウモリ。住宅で相談されるコウモリの多くを占める、市街地に強く適応した小型のコウモリ。耳は小さく丸い。鼻葉なし。
家獣ラボ|コウモリの章
アブラコウモリ──別名イエコウモリ。
手のひらに乗るほど小さく、1〜2cmの隙間にもぐり込む、日本で唯一の家屋性コウモリ。
鳥獣保護管理法によって捕獲・殺傷が禁じられた哺乳類なので、対処の正解は「追い出して、二度と入れないように塞ぐ」だけです。
読み進める前に
屋根裏でバサバサ音がしたとき、誰もが「とにかく捕まえて外に出そう」「殺虫剤を撒こう」と動きたくなります。けれどコウモリは、ネズミとも違えば、ハクビシンやアライグマとも違う、特別な扱いが必要な動物です。
コウモリは鳥獣保護管理法の対象種で、無許可での捕獲・殺傷は原則禁止です。アライグマのように「自治体の防除事業に乗れば捕獲できる」枠組みも基本的になく、家庭内被害で捕獲が必要に見える場合でも、まず自治体または都道府県の鳥獣行政担当に相談し、許可の要否と対応方法を確認します。許可なく一般家庭で実施できる対応は「追い出し」と「侵入口の封鎖」だけ。罠も殺鼠剤もNGです。
さらに、追い出しには時期上の制約があります。繁殖期(6〜8月)は飛べない子コウモリが取り残されるため避けるべき。冬眠期(11〜3月)は覚醒できず餓死するおそれがあるため非推奨。法令で月が指定されているわけではありませんが、生態上・動物福祉上、実務的に推奨される追い出し可能期は春(4〜5月)と秋(9〜10月)の年2回です。
このページは、そのルールの中で何ができて何ができないか、整理するためにつくりました。
第1章|日本のコウモリ4種を見分ける
日本では37種のコウモリが記録されていますが、住宅で相談されるコウモリの多くは アブラコウモリ(イエコウモリ)。他種は洞穴・廃坑・樹洞・橋などをねぐらにすることが多く、住宅への侵入は限定的ですが、地域や建物条件によってヒナコウモリ等が建築物を利用する例も知られています。本ページでは見た目で混同されやすい代表3種を並べて、見分け方を整理します。
ヒナコウモリ科アブラコウモリ属。別名イエコウモリ。住宅で相談されるコウモリの多くを占める、市街地に強く適応した小型のコウモリ。耳は小さく丸い。鼻葉なし。
ヒナコウモリ科ヒナコウモリ属。アブラより一回り大型。背の毛先が白っぽい霜降り模様。耳はやや大きく三角形。
キクガシラコウモリ科キクガシラコウモリ属。鼻に「菊の花」のような複雑な葉状の鼻葉(馬蹄形+槍状突起)。全身灰褐色、耳は大きく尖る。
ヒナコウモリ科ユビナガコウモリ属。第3指の中央の骨(第2指骨)が異常に長く、第1指骨の約3倍。翼を畳むと先端が折れ曲がる。全身黒褐色〜暗灰色の滑らかな短毛。
| アブラコウモリ Japanese House Bat | ヒナコウモリ Asian Particoloured Bat | キクガシラコウモリ Greater Horseshoe Bat | ユビナガコウモリ Eastern Bent-winged Bat | |
|---|---|---|---|---|
| 分類 | ヒナコウモリ科アブラコウモリ属 | ヒナコウモリ科ヒナコウモリ属 | キクガシラコウモリ科キクガシラコウモリ属 | ヒナコウモリ科ユビナガコウモリ属 |
| 頭胴長 | 4〜6cm | 7〜8cm | 6.3〜8.2cm | 6〜7cm |
| 翼開長 | 18〜22cm | 25〜27cm | 約35cm前後 | 約25cm前後 |
| 体重 | 5〜10g | 14〜30g | 17〜35g | 10〜17g |
| 外見の特徴 | 別名イエコウモリ。住宅で相談されるコウモリの多くを占める、市街地に強く適応した小型のコウモリ。耳は小さく丸い。鼻葉なし。 | アブラより一回り大型。背の毛先が白っぽい霜降り模様。耳はやや大きく三角形。 | 鼻に「菊の花」のような複雑な葉状の鼻葉(馬蹄形+槍状突起)。全身灰褐色、耳は大きく尖る。 | 第3指の中央の骨(第2指骨)が異常に長く、第1指骨の約3倍。翼を畳むと先端が折れ曲がる。全身黒褐色〜暗灰色の滑らかな短毛。 |
| 主な生息域 | 家屋の屋根裏・軒下・換気口・戸袋。市街地・住宅街に多い。 | 山岳〜里山。樹洞・橋・建物に集団営巣。まれに家屋にも進出するが少数。 | 洞穴・廃坑・トンネル。家屋侵入はまずない。 | 洞穴・廃トンネルに大集団営巣。家屋侵入はまずない。 |
| 法的扱い | 鳥獣保護管理法(捕獲・殺傷ともに原則禁止) | 鳥獣保護管理法(捕獲・殺傷ともに原則禁止) | 鳥獣保護管理法(捕獲・殺傷ともに原則禁止) | 鳥獣保護管理法(捕獲・殺傷ともに原則禁止) |
サイズは多摩動物公園・国立環境研究所・J-STAGE論文等の公開資料を参照(成体の目安、個体差あり)。翼開長は資料により幅があるため参考値として掲載しています。本ページで扱う4種はすべて鳥獣保護管理法の対象で、許可なき捕獲・殺傷は禁止されています。
第2章|症状から確かめる
音だけ・フンだけでアブラコウモリと断定はできません。複数の兆候が同時に出ているかを確認しましょう。3つ以上当てはまる場合、屋根裏や軒下に営巣されている可能性が高くなります。
アブラコウモリは日没前後の薄明時に最も活発になる。屋根の隙間・破風板・換気口から数匹がほぼ同じ時刻に飛び立つ姿が見られたら、家屋営巣の可能性が高い。一度経路を覚えたコウモリは毎日同じ場所から出入りする。
夕方〜夜間、軒下・換気口・戸袋付近からパタパタ・カサカサという軽い羽ばたき音や、引っかくような小さな擦過音が聞こえる場合、複数個体が出入りしている可能性。ネズミより軽く、リズムが不規則。
コウモリは超音波の他に、可聴域でも「キチキチ」「チチチ」という高音の鳴き声を発する。特に幼獣が母親を呼ぶ声、集団でのコミュニケーション音が天井裏や壁の中から聞こえる。ネズミの「キーキー」より一段高く乾いた音。
アブラコウモリのフンは5〜10mmの黒い米粒状で、ネズミのフンに似るが、押すと崩れて粉状になる。昆虫の鱗翅や羽根が混じることが多い。出入り口の真下・軒下のスポット的に大量堆積するのが特徴。
コウモリは体表に油分を持ち、毎日同じ出入り口を通ることで壁や窓枠に黒い油状のシミが付く。換気口の縁・破風板の継ぎ目・サッシレールの近くに、円形の油染みがあれば要警戒。
出入り口付近の屋根・外壁の塗膜が、コウモリの体毛と油で黒くスジ状にすり減る。瓦・モルタル・破風板の特定の場所に集中的に擦過痕があれば、長期営巣のサイン。
弱った個体・幼獣・換気口で詰まった個体が床下や庭に落ちていることがある。アブラコウモリは手のひらサイズで体重5〜10g、まれに親指サイズの幼獣が見つかる。素手で触らず、手袋・マスクの上で処理する。
コウモリの体表にはコウモリ寄生性のダニ類が付着することがある。屋根裏の営巣場所からダニが家の中に降りてきて、住人が原因不明の刺され跡やかゆみを訴えるケースがある。屋根裏営巣の二次被害として要警戒。
第3章|侵入経路を特定する
アブラコウモリが通れる最小の隙間は わずか1〜2cm。瓦のズレ、軒下の継ぎ目、換気口の劣化、エアコン配管の隙間など、人が「ここから入るとは思わない」場所から侵入します。コウモリの侵入経路は床下ではなく、ほぼすべて家屋の上部に集中するのが特徴です。
アブラコウモリの体は柔らかく、頭が通る隙間ならどこでも入れます。封鎖材は、目の細かい金網(1cm未満/目安はできれば5mm程度)・パテ・シリコンコーキング・エアコン用パテなど、隙間に応じた素材を組み合わせる必要があります。目視で確認できない高所は専門業者の点検が望ましいです。
第4章|駆除手段を分解する
コウモリは鳥獣保護管理法で 捕獲・殺傷の両方が原則禁止 されています。アライグマのように「自治体の防除事業に登録すれば捕獲可」という枠組みはなく、許可なく実施できるのは 「追い出し」と「侵入経路の封鎖」だけ。罠・殺鼠剤・粘着シートは違法です。下記の5つは、すべて「追い出し」または「封鎖」のためのツールです。
| 手段 | 効果 | 費用目安 | 強み | 弱み |
|---|---|---|---|---|
| 燻煙剤(追い出し用) | 中(追い出し用) | 1個1,000〜3,000円 | 屋根裏に煙を充満させて滞留個体を追い出す。コウモリは煙を嫌うため、退去をかける基本手段。 | 煙が抜けると戻る場合がある。冬眠期は覚醒できず餓死リスクで使用不可。繁殖期も幼獣が逃げ遅れて法律違反になる。 |
| 忌避スプレー(ハッカ油・ナフタレン系) | 低〜中(補助) | 1本800〜3,000円 | コウモリが嫌う臭いで侵入を抑える。屋根裏・侵入口に直接噴霧。ハッカ油は人体への安全性が高い。 | 効果は揮発性のため2〜3日で薄れる。単独では完全に追い出せない。封鎖と組み合わせる前提。 |
| 超音波装置 | 限定的 | 1台2,000〜8,000円 | コウモリが嫌うとされる周波数を出す装置。電源を入れるだけ。 | 効果には個体差・慣れの問題があり、学術的に確立した手法ではない。根本解決にはならない。 |
| LED強光・防虫灯 | 限定的〜中 | 1台3,000〜10,000円 | 強い光でコウモリを退散させる。屋根裏に常設すると一定の抑制効果がある。 | 光が届かない死角があると効かない。電気代と熱の蓄積に注意。 |
| 侵入口封鎖材(金網・パテ・コーキング) | 高(再侵入予防) | 1m500〜2,000円 | 出入り口を物理的に塞ぐ唯一の根本対策。1〜2cmの隙間も完全に塞ぐ必要があるため、目安は1cm未満(できれば5mm程度)の細目金網やコーキング材を使う。 | 在宅中の封鎖は閉じ込め死を招く。退去を確認してから施工する必要がある。高所作業が伴うことが多い。 |
※費用目安は地域・施工条件・業者により変動するため、実勢価格は事前見積もりで確認してください。
繁殖期(6〜8月)は飛べない子コウモリが取り残され、冬眠期(11〜3月)は覚醒できず餓死するおそれがあります。法令で月が指定されているわけではありませんが、生態上・動物福祉上、推奨されるタイミングは春(4〜5月)と秋(9〜10月)の年2回。時期を外すと死亡につながり、結果的に殺傷扱いに発展する可能性があります。
コウモリの主な侵入口は屋根・軒下・換気口など2階以上の高所が中心。地上から目視できず、ハシゴ・脚立・足場が必要になります。素人が屋根に登ると転落事故のリスクが高く、専門業者の調査が安全です。
個体が屋根裏にいる状態で侵入口を塞ぐと、出られなくなった個体が屋根裏で死亡し、強烈な悪臭・ダニ発生・腐敗による天井のシミの原因になります。封鎖は「日没後の出入りを目視で確認し、全個体が退去した直後」に行う必要があります。
コウモリのフンには ヒストプラズマ症(Histoplasmosis)の原因菌(真菌)が含まれることがあり、大量のフンや乾燥した粉じんを扱う清掃で吸い込むと、肺感染を起こす可能性が指摘されています。さらに体表のダニが家の中に降りてくる二次被害も。屋根裏清掃時は防塵マスク・手袋・ゴーグルの着用を徹底してください。
補足|時期制限という、コウモリ独自の論点
鳥獣保護管理法は「殺傷」「捕獲」を禁じますが、「追い出し」自体は許可不要の合法行為です。ただし時期を間違えると、結果的に殺傷扱いになる可能性があります。下のカレンダーは、追い出しの可否を年間で整理したものです。
追い出し可能期
4月〜5月/9月〜10月
成獣が活発に飛ぶが、子育てや冬眠の制約がない時期。追い出し→退去確認→封鎖の流れがスムーズに進む。
繁殖期
6月〜8月
飛べない子コウモリが屋根裏に取り残される時期。追い出すと子コウモリが餓死し、結果的に殺傷扱いになる可能性。原則として追い出し非推奨。
冬眠期
11月〜3月
体温を下げて代謝を抑える時期。無理に追い出すと覚醒できず餓死する。封鎖材を仮に施工することは可能だが、退去確認なしの本封鎖は閉じ込め死を招く。
「今すぐ何とかしたい」と思っても、繁殖期・冬眠期は時期を待つしかない場合があります。被害が深刻で待てない場合は、自治体の鳥獣行政担当課または専門業者に相談し、特別な許可・対応の可能性を確認してください。
第5章|DIYかプロかの線引き
6〜8月の繁殖期、11〜3月の冬眠期は、DIYでの追い出しは実務上避けるべき時期です。被害が深刻な場合は、自治体への相談実績がある業者を選び、合法的に対応できる時期と方法を判断してもらうのが安全です。
屋根裏10平米以上にフンが堆積している場合、ヒストプラズマ症リスクの観点から素人施工は健康面で危険です。清掃には防護装備(防塵マスク・ゴーグル・手袋・つなぎ)と消毒剤の使い分けが必要で、専門業者に任せた方が確実。
2階以上の屋根・軒下・換気口の封鎖には、ハシゴ・足場・専門資材(細目金網・コーキング・パテ)が必要です。素人が屋根に登る転落事故は毎年発生しているため、高所作業は専門業者へ任せるのが安全。
燻煙剤・忌避スプレーを試しても羽ばたき音が止まらない、フンが増え続ける場合、侵入経路の特定ができていないか、複数の侵入口が並列に使われている可能性。専門業者の調査が早道。
第6章|法律・業者選び・感染症リスク
コウモリは 鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法) の対象種で、無許可での 捕獲・殺傷は原則禁止。違反した場合、現行法では 1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金 の対象になり得ます。アライグマのような「特定外来生物の防除事業」のような自治体経由の捕獲枠組みも基本的にありません。
無許可で実施できるのは 「追い出し」と「侵入経路の封鎖」だけ。罠・殺鼠剤・粘着シート・殺虫剤による捕獲・殺傷はすべて原則禁止です。学術研究目的の捕獲には環境大臣または都道府県知事の許可が必要。家庭内被害で捕獲を伴う対応が避けられない場合は、自己判断せず、自治体または都道府県の鳥獣行政担当(環境課・自然保護課)への事前相談が前提になります。
被害が深刻でやむを得ず捕獲を伴う対処が必要な場合は、まず 地元自治体の鳥獣行政担当課(環境課・自然保護課) に相談し、特別な許可の枠組みや、認可を持つ業者を紹介してもらう流れになります。許可申請の制度概要は 環境省九州地方環境事務所「鳥獣保護管理法に基づく許可申請等について」 等の解説が参考になります。
コウモリ駆除を業者に依頼する場合、複数のチェックポイントがあります。業として建築物の有害生物防除を行う事業者は、建築物衛生法に基づく「建築物ねずみ昆虫等防除業」の登録が望ましく、登録には防除作業監督者の資格者の在籍が条件です。
コウモリ特有の論点として、鳥獣保護管理法に沿った追い出し・封鎖の手順を明示できるかを必ず確認してください。捕獲・殺傷を提案する業者は、その時点で違法行為を勧めている可能性があります。「追い出し→退去確認→封鎖→清掃消毒」の流れを書面で説明できる業者が信頼できます。
さらに、屋根裏の フン害清掃・消毒・断熱材交換 まで対応できるか、高所作業の保険加入があるか、時期制限を踏まえた施工タイミングの提案ができるかが、業者の力量差として出ます。
コウモリは複数の 人獣共通感染症 に関連付けて研究されています。代表的なのが ヒストプラズマ症(Histoplasmosis)で、フンに含まれる真菌(Histoplasma capsulatum)の胞子を乾燥した粉じんとして吸い込むと、肺感染・発熱・全身症状を起こすことが 厚生労働省検疫所 等で説明されています。大量のフンや乾燥粉じんを扱う清掃では、防塵マスク(N95相当)・ゴーグル・手袋を着用し、処分後の手洗い・消毒を徹底してください。
狂犬病は日本国内で1957年以降の発生例はないものの、北米・欧州ではコウモリ等の野生動物の狂犬病が根絶されていないことが指摘されています。海外での咬傷リスクには注意し、咬傷を受けた場合は速やかに医療機関へ。コウモリ類は学術的に SARS関連コロナウイルス の自然宿主や、MERSコロナウイルスのコウモリ起源の祖先ウイルスを保有することが報告されていますが、SARSの主な感染源としてはハクビシン、MERSの主な保有動物としてはヒトコブラクダが示されており、日本の住宅でアブラコウモリ被害から直ちに高リスクとされる感染症ではありません。
被害が確認された場所の屋根裏や軒下に立ち入る際は、長袖・手袋・マスク・ゴーグルを着用し、子供やペットを近づけないよう注意してください。詳細は自治体の保健所、または環境省「人と動物の共通感染症に関するガイドライン」を参照のこと。
参考情報
本ページの法令解説・生態・侵入経路・追い出し時期・感染症リスクは、以下の公的機関・研究機関・学術資料を参照してまとめています。
本ページの情報は一般的な目安として整理したものです。建物・地域・個体差により状況は異なるため、判断に迷う場合は最寄りの保健所・自治体や、登録のある防除業者にご相談ください。
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